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2023-9-15
佐々木 靖さん
【Patisserie-Chocolatier Yasushi Sasaki オーナーパティシェ・ショコラティエ】
ベルギーで唯一の日本人オーナーパティシエである佐々木靖さんが、グルメガイドのゴ・エ・ミヨ*・ベルクスのショコラティエ・オブ ザ イヤー 2024に選ばれました。地元では知らない人はいない名店の満を持しての最優秀賞です。受賞を記念してお話を聞かせていただきました。
♦受賞おめでとうございます。
審査員をして「香りの魔術師」と言わしめましたが、ご自身はどう思われますか?
佐々木氏:「香り」は自分が最も重視しているところですので、そう評価していただいているのだとしたら嬉しいです。お菓子は、お客様にご購入いただいてから、いつどんな状況で召し上がるのかわからない製品です。衛生上、どうしても高温で調理しないといけない工程がある。ただ、80〜100℃などになってくると、香りはとんでしまうんです。その制限の中で、いかにしてフレーバーを引き出すのか、商品として安定させるのかを日々考えながら作っています。その努力を審査員に見ていただけたのかなという思いはあります。
♦スタッフ:「日本的な精緻さ」も評価されました。そこは意識されているのでしょうか?
佐々木氏:私としては自分の出したい味を作っているだけで、ことさらに主張しているつもりはありませんが・・・。フランス・ベルギーでは、香りの上にさらに香りを足すという足し算のお菓子作りが主です。私は逆に引き算のお菓子作りを心がけています。その点が、フランスの審査員に日本的な印象を与えたのかもしれません。
♦受賞インタビューで原料は日本から仕入れるのか聞かれていましたね。
佐々木氏:日本のフレーバーである柚子や抹茶はブームになる以前から日本から仕入れています。
日本とベルギーの架け橋だというような文脈で聞かれれば、そう答えます(笑)。ただ、小麦粉、バター、クリームなど主要な材料はほとんどこちらのものですね。
同じ素材を使っていても、パティシエの経験や感性が違うと味の出方が変わってきます。温度管理とか、素材の組み合わせの違いなど、ちょっとしたことで大きく個性が出てくる。
同じであって同じじゃないんです。
そこを極められるのが匠なんだと思います。
♦近々、Bean to bar*を手がけられるそうですね。手間も経費もかかるこのプロセスに取り組まれるのはなぜですか?
*カカオ豆からチョコレートになるまでの工程を一貫して自社で行うこと
佐々木氏:Bean to barは以前から可能性を探っていましたが、手頃な大きさの機械が手に入るようになった昨今、現実的になってきました。これまではパティシエ的なアプローチでショコラを手がけてきました。クーベルチュール(製菓用チョコレート)に柚子やアーモンドとかフレーバーを加えて仕上げていくプラリネですね。
一方で、Bean to barは、カカオがもつ味を主体として味の表現ができるのが魅力です。
カカオを自分でローストし、皮をむいて、ショコラミル(石臼)でミクロ単位まで細かくして・・・というように多くの工程があるのですが、その工程一つ一つによって自分の味が表現できます。ローストの深さはもちろん、砂糖を加えるタイミング一つでも味や風味が変わってきます。
現在研究中ですが、そう遠くない時期にお店に出せると思います。
♦佐々木さんは、後進の育成にも尽力されていますね。
佐々木氏:数えたことがないのですが、学生を入れると200人を超える実習や見習いを受け入れてきたでしょうか。ブリュッセル の母校はもちろんナミュール やリエージュなど遠方からも来ています。
♦日本からはこれまで何人のパティシェを受け入れてきたのでしょうか?
滞在中、コンクールで実績を残された方もいますね。
佐々木氏:開店以来、日本からは20人以上のパティシェがチームに加わってくれました。
コンクールに参加するにあたっては、相当な準備が必要で、毎日夜中2時までくり返し練習しなければなりません。これに耐えられる人だけが戦いぬくことができます。そんなやる気がある人へのサポートは惜しみません。私が受賞した時の経験から技術やコツを伝えたりしています。
また、私自身がコンクールが好きなもので(笑)、フランスまで車で送って行って現地で応援することも毎回です。
これまでスタッフは、最高峰のクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーや、ワールド・チョコレート・マスターなど数々の輝かしい実績を残しています。若手のスタッフがこうして賞を獲って活躍するからこそ、店のチームも評価されるし、私も刺激をもらっています。
帰国してから自身の店を開店するパティシエも多く、一時帰国の度に訪ねて歩くのも楽しみです。
スタッフには日頃から「店のために働くのではなく、自分の為に働くように」とアドバイスをしています。
自分が修行していた頃は総じて業界の労働条件が悪かったので、自分が経験したような不要な苦労はさせないように環境改善に努めています。
♦今回の受賞でベルギーの名店としてますます評価が上がりましたね。
佐々木氏:これがベルギーらしいところで、受賞したからといって急にお客様が押し寄せることはないんですね。普段パンしか買わない常連客が急にチョコレートも買ってみようか・・・ともならないし(笑)。これでいいんです。一過性の需要急増のために生産体制とクオリティがおびやかされる事があってはいけない。店はいつも通りに進めていければと考えています。今はありがたいことにベルギーメディアの取材がかなり来ているので、個人的には脚光を浴びている状況を楽しもうと思っていますが(笑)。
♦とはいえ、地元の期待は高まるばかりでは?
佐々木氏:お店があるブリュッセル市ウォルウェ・サン・ピエール区とは良い関係を築けています。区の催し物に呼んでいただいたり、サポートをしたり、近所の学校のバサーにも参加しています。私はパティシェの勉強をベルギーでスタートして、一貫してベルギーでキャリアを積んできたので、この地で育てられたという思いは強いです。地域とのお付き合いは今後も続けて行きたいですね。
Patisserie-Chocolatier Yasushi Sasaki
https://www.patisserie-sasaki.be/
https://www.facebook.com/profile.php?id=100063303996068
#patisserieyasushisasaki
@sasaki.yasushi
【佐々木 靖氏プロフィール】
1972年生まれ奈良県出身。日本の高校を卒業後、父親の駐在に帯同し来白。ベルギー国立専門料理学校C.E.R.I.A.で学ぶ。ブリュッセルの名店Mahieu(現在は閉店)で11年の勤務後、2007年Patissrie-Chocolatier Yasushi Sasakiを開店。
世界菓子コンクールで何度も受賞。店としてはベルギー国内外の全ての製菓コンクールの優勝経験がある。妻と娘、猫の3人(プラス1匹)家族。新しいもの、電気で動く小さいものが大好き。
東京都洋菓子協会国際部員
フランス料理アカデミー会員
∗ ゴ・エ・ミヨ ガイドについて:
フランス発祥のヨーロッパ2大グルメガイドブックである。知名度を誇るミシュランに対し、ゴ・エ・ミヨ は、料理人の信頼度が高い通好みのガイドと言われている。
ベルクス版では、本場らしく「ショコラティエガイド」なる部門が設定されている。
2024年度ショコラティエ部門は、128名以上のショコラティエが対象となり、フランダース地域、ワロン地域、ブリュッセル首都圏の3地域からそれぞれ最優秀ショコラティエが選ばれた。佐々木氏はブリュッセル首都圏での受賞となる。
公式サイトhttps://www.gaultmillau.be/